下津井で学習塾「さかのうえの学習塾」を経営されている氷川さんにお話を伺いました

東京からの移住者、氷川さん

下津井にある塾「さかのうえの学習塾」を運営されている氷川雅則さんにお話を伺いました。

さかのうえの学習塾は毎週火曜日に鷲羽電気さんの2Fスペースを利用して小学校高学年向けの「探求教室」の授業を行っています。下津井地区の他、児島の味野地区でも授業を行っているそうです

今日は小学校高学年向けの授業を見学させていただきました。

自己紹介をお願いします

氷川さん
氷川さん

長らく東京で学習塾を運営していたのですが、2021年5月に家族で下津井に移住して「探求学習」を行う「さかのうえの学習塾」を運営しています。「探究教室」は学習塾の中の小学生向けコースです。

東大を卒業されるくらいですから小さいころはガリガリ勉強されてたんですか?

氷川さん
氷川さん

昔の話しなので恥ずかしいですが、正直言うと勉強はあんまりやってこなかったです。中学受験はしたので塾は行きましたけど、親から勉強しなさいと言われた記憶はありません。勉強する習慣がなさすぎて、中学校に入ったときには、まわりの子どもたちが信じられないくらい勉強をするので大きなカルチャーショックを受けたぐらいです。

また、子供の頃は結構まだ自然があって外で遊ぶのが普通でしたし、よく近くの野山に探検に行っていました。でも、現代の子ども並みにビデオゲームにもどっぷりはまっていました。

探求学習って?

氷川さん
氷川さん

探究とは何かを簡単に説明すると、「課題を見つけ、仮説を立て、それを試し、うまくいかなかったら振り返り、新たな仮説を立てる」というプロセスを繰り返すことです。たとえば、下津井や児島でもスモールビジネスをやっている人がたくさんいますが、ビジネスも探究活動の一つと言えます。探究は人間として生きていく中でとても大切なもので、それを使えるのは、もちろん将来役に立つ能力ですが、その活動自体小学生にとっても、とても楽しいものだと考えています。

今日の授業の趣旨は?

氷川さん
氷川さん

子供たちが地域のことを知って地域のことを発信する「下津井ボードゲーム」を作っています。今日は、下津井地域の特徴を取り入れたボードゲームをどういうふうに形にしていくかを探究しています。

授業の内容はどうやって決めているんですか?

氷川さん
氷川さん

今やっている下津井ボードゲーム作りは、もともと町探求みたいなものをしたいという生徒の提案からはじまりました。ただ、学校の活動と同じでも面白くないので、ボードゲームにしたら面白いんじゃないかと私からアドバイスをしました。あくまで私の意見も意見の一つで、生徒が自分からやりたいと言ったもの、生徒にとって切実な問題を主題にしたいと考えています。他にも運動会でどうやったら速く走れるかをやりたいと提案があった時は、TikTokで走り方を見て、実際にみんなで試しました。それ以外には、最近はダジャレの探求をしたり、季節によって、ビワやタケノコ、シャコを獲りにいったりもしています。

ネットやSNSで簡単な探求はできるなかで、それを試してみる最初の一歩って勇気がいるのでは?

氷川さん
氷川さん

そうですね。例えば速く走れる方法って簡単にネットで確かめられます。うっかりしていると、それを動画で見ただけで納得しちゃうんですけど、探究教室では実際にみんなで実際に走って、確かめ、振り返るところまでやります。それを、みんなでやると楽しいし、いろいろアイディアも出ます。

子どものやりたいことが少なくなっているという印象があります

氷川さん
氷川さん

他人からやらされてることが多いと「やりたいこと」がどんどん減っていくんですよ。大人から干渉されない、グループチャットやゲーム、YouTubeだけが楽しいと感じるようになっていく。大人がやらせたいことではなくて子どもがやりたいことを周りがサポートするようにしたらやりたいことがだんだん増えて将来にもつながっていくようになると考えています。

子供たちにどういう大人になってほしいですか?

氷川さん
氷川さん

どういう大人になってほしいかと問われれば、各自が自分がなりたい大人になってほしいと思います。ただ、なりたい大人といっても、自分にどのような可能性があるか、どんな選択肢があるか、どのようにすればその目的を達成できるか、などについてまったく知見がないと考えることができないので、探究教室で学ぶことによって、そのようなことを考える手がかりを見つけてほしいと思っています。

それと同じことの裏返しなのですが、仕事にしても遊びにしても勉強にしても楽しんでやってほしいと思います。下津井や児島にはそのようにして楽しんで生きている人がたくさん住んでいますね。

東京で学習塾をされてた時の子供達と下津井の子供達に違いはあるんですか?

氷川さん
氷川さん

中学生はそんなに変わらないかもしれないけど小学生はやっぱり違いますね。東京の場合、とても忙しい。例えば塾に通っている割合が全然違う。下津井で小学生から塾に通ってる子は少数なんですけど東京の子どもは8割ぐらい。

東京で小学生も教えてたんですけど、東京って大半の子が中学受験をするんです。ただ、実際に小学生に勉強を教えていて、小学生があんまり勉強しすぎるのは良くないなと感じ、移住先で塾をやるなら小学生は教科の勉強以外のことをやろうと考えていました。下津井には海も山もと自然がいっぱいあり、長い歴史のある人々の営みもあるので、自然体験、社会体験みたいなことを授業に取り入れたら面白いなと思ったのが、探究教室の始まりです。

東京などの大都市圏に住んでいる親御さんの中には公立の小中学校に進むことに不安を感じる方もいるかもしれませんが、中学受験についてどう思いますか?

氷川さん
氷川さん

ここで中学受験についてどこまで語っていいのか分からないのですが、東京や関西のような大都市圏にくらべると地方は中高一貫校が大変少ないのは確かです。
ただ、東京で小学生や有名中高一貫校向けの塾で長年教えた経験から話すと、中学受験って良い面もありますけど、悪い面もあるということを特に親は自覚しておかないといけないと思います。
中学受験で一番問題なのは、何のためにがんばっているかが子どもにはよく分からないからなんですよね。その結果の意味が小学生にはまだよく分からないのですが、よく分からないままがんばらないといけなくなる。例えば、いい中学に入ればいい大学に行けるとか、いい会社に入れるぐらいは分かるんですけど、それで本当に自分が幸せになれるのかはよく分からない。それが判断できないのに負担だけはとても大きい。
がんばると言えばまだ聞こえはいいのですが、その多くは我慢です。例えば、友だちともっと遊びたいのに遊べない。話をしたいのにその時間がない。勉強がぜんぜん楽しくないのにしなければならない。
親子の信頼関係が壊れることもあります。親としては受験するなら少しでも良い中学校に進んでほしいというのが親心です。今子どもが少々ストレスを感じて勉強しなければならないとしても、中学入試が終わればまた関係が修復できると考えてしまうんですけど、その年齢でいったん壊れた信頼関係は完全には治らないことも実は多いです。
その理由の一つは、中学入試が終わったとたん今度は塾や親ではなく、学校からさらに(無責任とも言える)大量の課題とそれを前提とした定期試験がはじまり(東京なら東大や国公立医学部受験のための中高一貫校生向けの塾に小学校6年の3月から行かされ)、我慢しなければ行けなかったのは中学受験の一時的なことではなく、むしろもっと長い期間、あるいはこれから先の人生ずっと続くことを知り、親をはじめとする大人たちにだまされた、裏切られたと思ってしまうからです。
中学受験がすべて悪い結果をもたらすわけではないですが、少なくとも上に述べたようなリスクがあるということを親が知っておくことは必要だと思います。冒頭で東京などの大都市圏に比べて中高一貫校が少ないと述べましたが、それは必ずしも選択肢が少ないわけでなく、公立の普通の小中学校に進む選択肢が地方にはあるという考え方もできます。
実際に、教育経済学でも本人の成績が同じなら無理をして成績上位校にいくより成績下位校に進んだ方が自己肯定感が高まり、将来の年収や幸福度も高くなるという結果も出ているというのはよく知られています。

下津井に移住しようと考えてる、特にお子さんがいる方に伝えたい、東京では味わえない特徴ってありますか?

氷川さん
氷川さん

先ほど話したように自然環境が素晴らしいというのももちろんありますが、小学校の児童数がちょうど良い大きさだと思います。一学年が10人ぐらい。都市部だと一クラス30人ぐらいで、やはり多すぎると思います。

1学年10人だと学校全体で60人ぐらいで、それぐらいの人数だとみんなお互いのことを知ってるんですよ。例えば1学年100人で全校で600人だと顔は見たことあるけど名前も分からないという人の方が多くなってしまいます。

人類学で人間関係を円滑に保つことのできる人数というのがあって、大体150人までだと言われていますが、子どもを中心としたコミュニティが成立しています。また、今は学校が小さな町中にあって子育てを終えた地域の人たちも子どもたちの顔を覚えてくれていつも見守ってくれているのが心強いです。

これからやってみたいことはありますか?

氷川さん
氷川さん

今新しい試みで不登校の子どもたちのための居場所づくりを始めています。探究教室の要素もありますが、スマホやゲームなども積極的に取り入れていきます。不登校の生徒はデジタル機器に親和性が高い人たちが多く、そのような長所を伸ばしながら、他の人たちとのコミュニケーションや、自然や社会との接点を増やすなど、うまくバランスをとりながら居場所を作っていきたいと考えています。


授業を見学させていただきましたが、自分が小学生だった時とは時代も環境も全く違ってて新鮮でした。ゲームやSNSなど誘惑が溢れている今、子供のうちに集中する1時間を作ってくれる場は後々その子に良い影響を与えると思いました。

また、探求する際の一歩を踏み出すのは億劫でなおかつ不安になるものですから、それをみんなで一緒にできるのは さかのうえの学習塾の良さのひとつと思います。

さかのうえの学習塾プロフィール